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第百十話 容疑

last update publish date: 2026-08-03 04:27:33

第 百十話    容疑

 警察署では勝来の取り調べが行われていた。

 「お前、花魁だろ! どうして殺したんだ?」

 「私は殺していませんし、叩いてもいません」 こうなると取り調べではなく、尋問となっていく。

 それは三日間、同じ事を繰り返して警察も勝来も一歩も引かない状態になっていた。

 吉原では悪い噂が流れ、三原屋は閑古鳥が鳴くような状況になっていく。

 「はぁ……」 采が困った様子になっていくと

 「お婆…… 勝来姐さんは大丈夫ですよ。 何もしていないのですから、信じて帰ってくるのを待ちましょう」 梅乃は心労の采をなだめていく。

 「では、行ってまいります」 小夜が元気な声を出すと、後ろに梅乃がついていく。 二人は警察署に向かったのだ。

 吉原から早歩きで一時間ほど、「遠いな……」 小夜がぼやくと

 「もう少し! 私が行った戦場は六時間ほどだったから……」 梅乃はニコニコしながら話す。

 「梅乃は元気よね~ 昔から動きまくっていたものね」

 そんな話をしていると警察署が見えてくる。

 「あった。 ここに勝来姐さんがいる……」

 「ごめんください」 今度は梅乃が元気に挨拶をす
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  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百十話 容疑

    第 百十話    容疑 警察署では勝来の取り調べが行われていた。 「お前、花魁だろ! どうして殺したんだ?」 「私は殺していませんし、叩いてもいません」 こうなると取り調べではなく、尋問となっていく。 それは三日間、同じ事を繰り返して警察も勝来も一歩も引かない状態になっていた。 吉原では悪い噂が流れ、三原屋は閑古鳥が鳴くような状況になっていく。  「はぁ……」 采が困った様子になっていくと 「お婆…… 勝来姐さんは大丈夫ですよ。 何もしていないのですから、信じて帰ってくるのを待ちましょう」 梅乃は心労の采をなだめていく。 「では、行ってまいります」 小夜が元気な声を出すと、後ろに梅乃がついていく。 二人は警察署に向かったのだ。 吉原から早歩きで一時間ほど、「遠いな……」 小夜がぼやくと 「もう少し! 私が行った戦場は六時間ほどだったから……」 梅乃はニコニコしながら話す。 「梅乃は元気よね~ 昔から動きまくっていたものね」 そんな話をしていると警察署が見えてくる。 「あった。 ここに勝来姐さんがいる……」  「ごめんください」 今度は梅乃が元気に挨拶をする。 「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」 警察官が訊ねると 「ここに勝来姐さんがいると思うのですが……」 「勝来? あぁ、吉原の女郎か?」 警察官は書類を調べ、容疑者の面会室へと案内する。 待つこと十分。 待合室のドアが開くと 「勝来姐さん!」 梅乃と小夜が声を掛ける。 勝来の顔は疲れていた。 元々が細い顔立ちだが、更に痩せた印象だった。 「大丈夫ですか? ここではどんな事を……?」 小夜が訊くと、勝来は下を向きながら着物の袖をまくる。 そこには無数のアザが出て来た。 梅乃は警察官を見る。 警察官は普通の顔をして勝来を見ていた。 (拷問は当たり前ってことか…… 戦争も同じ、官と呼ばれる者が正義なんだろうな……) 梅乃は黙って警察官を睨む。 「姐さん…… これ、着替えです」 小夜が勝来に着替えを渡す。 「ありがとね」 勝来が受け取ると 「ここで着替えなさい」 警察官が言う。 「ここで? なら、しばし出ておくんなんし……」  「貴様は容疑者だぞ! 犯罪人をそのまま置いておけるか! 早く脱げ」 警察官は悪びれもなく叫ぶ。 勝来は数秒、下を向き “シュ…… ” 帯

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百九話 伝統

    第 百九話    伝統 秋になり、外は冷え込んでいた。 そこに二人の女が運ばれてくる。 「早く歩くんだよ!」 縄で縛られ、声も出せないように猿ぐつわをされていた。 これは吉原伝統の拷問である。 中見世の裏側、客も滅多に歩かない場所に大きな木がある。 そこには縄が掛けてあり、女を木に縛っていく。 「それで、誰に言われてやったんだい?」 三原屋の妓女が聞くが、勝来を襲った女たちは答えない。 すると “バシャッ―” 二人の妓女に水を掛ける。 秋が深まり空気が冷えて来た頃には水の冷たさが刺さってくる。。 「早く吐きな! これならどうだい?」 三原屋の妓女が棒を持ち、女たちを叩く。 江戸時代から昔、遊郭では足抜けが多かった。 会所の者が捕まえては妓楼に戻し、その後は三日間の折檻が続いたと言われている。 真冬であれば水を掛け、棒で叩くのは当たり前である。 折檻で死んでいく妓女も少なくなかった。 これは吉原だけでなく、日本の遊郭のしきたりのようなものだった。 今回は花魁への襲撃という悪事に対しての折檻ということになる。 しばらくの折檻が続き、黙ったまま采と洋蘭が見届けていると 「お婆、そのへんで……」 梅乃が止めに入る。 「何を言ってるんだい! 勝来が襲われたんだ。 こんなもんじゃ済まないんだよ」 采の目が厳しくなると、隣の洋蘭が何度も頷く。 厳しかった時代を過ごした二人には当たり前のことだったようだ。

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    第 百八話    影踏み勝来が引手茶屋から戻ってくると、三原屋では緊張が走った。それは勝来から溢れ出てくる気だ。 顔つきが険しく張った肩、そして普段なら静かで上品に歩くのが勝来なのだが……(間違いなく怒ってる……) 誰もが分かる雰囲気だった。「では、コチラでありんす……」 客を案内する勝来の表情は、表向きは笑顔だが普段から接している者には分かりやすかった。酒宴が始まると勝来は笑顔で接客するも「勝来さん? どうかしました?」 客も異変に気づく。「いいえ、何でもございませんよ……」 素っ気ない対応をすると客は黙ってしまう。「小夜、古峰~」 梅乃が二人を呼ぶ。「梅乃、どうしたの?」「勝来姐さん、戻ってきてから変だった…… 二人で宴席に入って見てきてくれない?」梅乃は遣り手の席から指示をする。 しっかり女将の代行が出来るようになっていた。“スッ――” 小夜が静かに襖を開ける。 客は困惑した表情で勝来に酒を注いでいた。「どうしたんだい? この宴席にお前達が来る所じゃないよ」勝来が厳しめの目で言うと「はい。 しかし、梅乃から言われまして……」「……」

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百七話 華の乱

    第 百七話    華の乱 東京や九州で士族の乱が勃発し、日本全体の経済が低迷していく。 明治政府に反対する者が出る事で経済は軍事に偏り、その他の流通が停まってしまった。 その為に不景気になり、吉原に顔を出していた富裕層の数も減り、どこの妓楼も苦しい状態となっていった。 「なんだか、あの頃みたくなってきたね……」 采がキセルを吹かせながらボヤいていると 「私が三原屋《ここ》に来た頃でしょうか……」 隣で片山が頷いている。 片山は戊辰戦争の時に上野で戦った彰義隊の一人だった。  「お前、武士として戦っていて怖くなかったのかい?」 「あの時は夢中でしたから…… 仲間の為にとか、幕府への忠義が優先でしたので……」 上野戦争で怪我をして吉原大門の前で倒れていた片山を玉芳が助けたのが出会いだった。 戦争が終わり、義理堅い片山は三原屋で働くようになったのだ。 「こういう時は急に変な事が起きるからね。 注意しとくんだよ」 采は、不景気になると吉原が騒がしくなるのを知っている。 情報に敏感になる必要があった。 梅乃は朝から香梅楼に出向いていた。 良くしてくれる妓楼に挨拶をする。 これまた義理堅い梅乃である。 「おはようございます♪」 香梅楼は小見世であり、いきなり中に入っていくほど大きな見世ではない。 玄関から大声を出し、妓女が出てくるのを待っている。 「梅乃じゃない…… 久しぶりだね」 香梅楼の妓女が喜んでいると 「お久しぶりです」 梅乃は

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百六話 梅乃と梅乃

    第 百六話    梅乃と梅乃 明治九年、秋。 東京での反政府勢力の討伐が完了した。 東京には大きな勢力はなく、士族や華族などが結成した小組織が騒ぎ出したことを近衛師団が鎮圧したのである。「大木様、お疲れさまでした」 梅乃がニコッと微笑むと「うん、梅乃ちゃんもご苦労だった」 大木は梅乃の頭を撫でる。近衛師団が鎮圧したが、その前に出ていった兵士の負傷者が多く出た。 どの救護所にも多くの犠牲者が溢れている。 「三原さん…… そちらに負傷兵を回せますか?」 医学生が大声で梅乃に訊く。 「はい、連れてこられますか?」 梅乃も手当てをしながら返事をする。 梅乃が手当てをする場所に仲間の兵士が肩を貸し連れてくる。 「すまん、嬢ちゃん…… よろしく頼む」 兵士が仲間を横にすると (これは……) 梅乃が息を飲む。 負傷した兵士は、出血が酷く顔が青かった。 梅乃が立ち上がり、宿舎のベッドの空きを確認するが (一杯か…… 誰かを出せるかな……?) 梅乃は一人ひとりの状態を確認していく。 「みんな起こせる状態じゃないな……」 そして困った顔をして現場に戻ってくると 「どうだい? 診れそうかい?」 仲間の兵士が訊く。 「どの寝所も埋まっていますが、私の場所なら……」 覚悟を決めた梅乃は、自身が寝ている場所を提供する。 「すまない…… アンタ、本当に噂通り『白衣の天使』なんだな」 初めて聞いた言葉に 「天使?」 頬を赤らめ、照れる梅乃であった。  「こちらへ……」 梅乃が案内すると、負傷した兵士が小声で言う。 「俺はいいから、他のヤツを……」 それを聞いた梅乃は 「優先順位は私が決めます。 今は横になっておくんなんし……」 つい、使い慣れた郭言葉を出してしまうと 「アンタ…… その言葉は?」 「私の故郷は吉原でありんす。 大見世、三原屋がありますので元気になったら寄っておくんなんし……」 梅乃が微笑むと、怪我をした兵士が笑顔になっていく。 (なんて娘なんだ……) 他の兵士も唖然とし、治療に入る梅乃を見つめていた。  梅乃が治療を進めていくと、手が止まってしまう。  (出血が酷い…… 確か先生が言っていたのは血液には型があって、それに一致しない血液を入れた場合は死んでしまう…… だけど、血を入れないと このままじゃ……) 梅乃は悩

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    第 百五話    白衣の天使 「……さん、お薬です」 梅乃が兵士の治療を続けて一ヶ月以上が経過していた。 「すまない……」 兵士が薬を飲み、横になっていると 「貴様…… いつまで寝ているんだ! 早く戦地に戻らないか!」 上官の声が響く。 「あの…… これでも良くなってきていますので、もう少し……」 梅乃が上官に話すと 「医者の分際で…… それも小娘が意見すると言うのか!」 上官は梅乃を睨む。 「そう言うな…… 彼女も医者として、沢山の兵を救いに来ているんだ」 上官をなだめるのが大木である。 気性が荒くなっている兵士から守る為に宿舎に駐在していた。 「大木様、ありがとうございます……」 梅乃が頭を下げると、 「いいんだよ。 これも役目だからな」 大木はニコッと微笑む。 治療が済むと、梅乃たち医学生は機器の整理をする。 現代の用語で言えば、戦地では急患ばかりである。 非常時にも対応できるように器具の整理は大事なことだ。  「包帯はどれくらい残っている?」 医学生の一人が訊くと、 「もう、少ししか残っていませんね…… 私、取りに行ってきます」 梅乃は宿舎から少し離れた場所にある病院へ向かっていった。 東京では大騒ぎになる戦はないが、政府に反対する組織が潜んでいる。 少人数で兵士に奇襲をかけることが多かった。 (誰が政府に反対する人なのか分からないな…… みんな普通の人に見える)  「ごめんください……」 梅乃が病院に着くと、 「うわぁぁ……」 「ぎゃー」 沢山の人の叫び声が聞こえる。 「こんなに沢山…… 手伝います!」 梅乃は病院の医者の中に入り、手伝いをしていく。 「これでよし! 良くなるまで安静にしてて下さいね」 梅乃が笑顔で兵士を見る。 「すまない…… 嬢ちゃん、ありがとな……」 兵士はニコッとする。 (兵隊さんと言っても、みんな普通の人間だ。 働いている場所が兵隊さんなんだもん)  そこに大怪我をした者が運ばれてくる。 身体中から出血し、痛がっていた。 「さぁ、こちらへ……」 梅乃が合図をするが、他の医者たちは無反応になっている。 「どうされたのですか? 運ばれてきましたけど……」 梅乃が言っても、誰も治療を行おうとはしない。 「??」  そこに一人の男性の医者が口を開く。「この者の治療はしない。 君は宿舎に帰り

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第四十六話 袖を隠す者

    第四十六話    袖を隠す者 昼見世の時間、禿たちは采に指示を受けていた。 「いいかい、妓女として芸のひとつは身につけておかないとダメだ! 舞踏、三味線、琴でもいい…… わかったね!」「はいっ!」 三人は元気に返事する。 この冬を越えれば梅乃と小夜は十三歳となる。 菖蒲や勝来は十四歳の終わりに水揚げをし、十五歳になったら客を取

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第三十八話 逆襲

    第三十八話    逆襲「こんにちは~」 梅乃が挨拶をする。この日は赤岩と往診に出ている。「あ~ 梅乃ちゃん、いらっしゃい。 先生もありがとうございます」そう言って、妓楼の中に入れてくれたのは小松崎である。以前、大量の足抜により頭を抱えていた『小松屋』の店主である。梅乃の活躍によって足抜は無くなり、見世を維持できていた。そんな小松屋が三原屋に往診を依頼してきていたのである。赤岩と梅乃が大部屋に入ると 「一列に並んでくださーい」 梅乃は早速、妓女並ばせる。(すっかり手慣れたもんだな……) 赤岩がクスッと笑う。「では、始めます」 赤岩が言うと、梅乃が妓女の服の下を確認していく

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第二十二話 昼行燈

    第二十二話    昼《ひる》行燈《あんどん》「潤さん、おはようございます」 梅乃は早起きをして、見世の前をホウキで掃いていた。「おはよう、梅乃~」 片山も朝早くから掃除をしていた。初夏になると朝陽が昇るのが早い。早い時刻に外が明るくなる為、自然と『後朝の別れ』も早くなっていく。“ゴーン ゴーン ” と、掃除をしている途中に、浅草寺の鐘が鳴る事も稀《まれ》である。そこに赤岩が現れた。「おはようございます」 そう言って、赤岩は身体を伸ばしていた。「赤岩さん、いつも早いですな~」 片山が声を掛けると「夜、寝るのも早いですから~」 赤岩はニコッと答えた。(あれ? 赤岩さんの部屋、

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第二十話 新しい禿

    第二十話    新しい禿「……」「へっ?」 梅乃と小夜は驚いていた。「何、ボーっとしているんだい! 部屋割りと仕事を教えてやるんだよ」采は梅乃たちに言っていた。「は、はい―」 三原屋は、新しい禿を迎えいれることになったのである。(先日の客は、この事だったのか……) 梅乃は思い出していた。時を戻して三十分前、「梅乃、小夜、新しい禿になる古峰《こみね》だ。 しっかり教えてやりな」 采の言葉だった。そして古峰は 「……」 無言だった。(この娘は……声が出せないのかな? たまに吉原では変わった人はいるけど……) 「こんにちは。 私は梅乃、よろしくね♪」 梅乃は、『最初が肝心《か

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